2004/09/04 大源太川北沢 晴れ後雷雨
土日と月曜日に取得した夏休みを合わせて3連休だ。せっかくなので、すばらしいと言われている上越国境の沢にテン泊山行で行こうと思い立ち”ナルミズ沢”に照準を定めて出発した。しかし、水上は(予報通り)あいにくの雨模様。こんなこともあろうかと、候補に上げておいた上越国境の向こう側(新潟側)の大源太川に変更した。
朝6時半に登山口に到着。天気は青空も出ているし、予報によれば夕方までは天気は崩れないとのこと。早速、沢装備を背負って入渓点に向かった。
「上信越の谷105ルート」によれば、大源太川北沢は「初級」となっており、微塵の不安もなく出発した。
駐車場から30分で登山道の徒渉点がある。ここが入渓点である。フィックスロープがあるが、まったく不要なほど沢は静かに流れていた。(下の写真と比較してください。)
しばらくは4〜5mクラスの滝をいくつも越す。水量は中程度か?フリクションが効くので快適に登れた。
6m四条の滝が現れた(写真だと左端の滝が隠れている)。遠目には小さく見えるが近づくとなかなかの迫力だ。
四条の滝の左端の滝を登るRacco。水は冷たかったが、快適に登れる。
へつりで突破できそうにない釜は、いさぎよく泳いで滝に取り付いた。(写真は泳ぎ終わって上陸するところ。)
入渓して最初に現れるやや大きめの直瀑である7mの滝。右側を登ったが、写真の位置で手がかりが少ないので、やや苦労した。
10mのナメ滝。金山沢でのウオータスライダのトラウマから左草付き気味のところを登った。
←七つ小屋沢、見晴台の沢との三俣(北沢は左端で写っていない)。
3つの沢とも大きな滝となって合流している。

3つのうち一番大きな七つ小屋沢の30m大滝。初めて見る15m以上の滝に唖然とするばかり。天気がよかったので、この後滝に打たれてみた。今思えば、この辺までは余裕があった。→
七つ小屋沢の大滝の正面にある北沢の20m大滝。

まずは「青」のルートをフリーで登った。フリクションは効いていたが、ちょっとした気の緩みで「赤」のようにワン・バウンドしながら転落した(本人は何がなんだか分からない一瞬の出来事)。おそらく落下高さは10mくらいか?
最初のワン・バウンドで左第1か第2肋骨が折れたようだ。(肋骨骨折は4回目なので痛みで想像できる。)ワン・バウンドの後はダイレクトに落下した(模様だ)が、背中(ザック)から着地したので、擦りむき程度の怪我で済んだ。この高さのグランド・フォールで肋骨1〜2本ならラッキーなのかな?
気を取り直して次に「緑」のルートをフリーで登った。水が流れているところで先行していたそいがにお助けひもを投げてもらい通過した。
この後、落ち口に近づけなさそうだったので、矢印のように上へ進んだが、途中、岩場のトラバースに突き当たってしまった。「黄色○印」にハーケンがあったので、Raccoがビレイしながらそいががそろそろと進み、ブッシュの立木にロープを固定。トラバース大成功!この滝の通過に1時間半以上要した。
なお、ハーケンにはmt.raccoの名前入りのカラビナが今でもかかっているだろう(笑)。
12m三段の滝に取りかかる頃、ポツリポツリ雨が降り出してきた。(写真だと明るく見えるが)7m三段チムニー滝を登る頃には、本格的に雨が降り出してきた。核心部(20m大滝、12m三段の滝、7m三段チムニー滝)の先でルートミスをして行ったり戻ったり1時間以上タイムロスをした。その時点で下降も考えたが、沢は既に激流となっており、20m大滝も含め下降は困難を極めることは明らかだった。
大源太の山頂から旭原に延びるヤスケ尾根を狙って小さな沢をがむしゃらに登った。途中、スラブ帯とヤブ、泥壁が交互に現れたが、大雨でスラブも、泥壁も滑る滑る。特に泥壁はぬかるんで2歩進んでは1歩ずり落ちる有様だ。ここでは、とにかくそいがを持ち上げるのに必死で、ロープ長分登ってはブッシュを束ねてセルフビレイし、そいがをたぐり寄せ、また登ることを延々と繰り返した(初めは下↓の写真のようにロープをダブルで使っていたが、すぐに時間短縮のためシングルに切り替えた)。
更に、悪いことにあちらこちらから雷鳴が轟きだした。雷鳴は徐々に近づいており、水平に延びる稲妻も何回も見えた。
こうなると、身を隠す場所もなく、ガチャモノ(金物)を沢山身につけている我が家は、次は我々に向かって稲妻が走るのではないかと不安になり、運命を天に任せて薄暗くなった斜面をひたすら登った。
このスラブ帯とヤブ漕ぎで3時間以上要した。
とりあえず、19時まで登ってみて、登山道に出ない場合は、藪の中でツエルトを被ってビバーグすることとした。ただし、翌日は今日より大雨が予想されるので、スラブ帯も泥壁も登るには、今日以上の困難だろう。
日没寸前の19時ちょうど、急に目の前が開けた。ヤスケ尾根の登山道だ。本心、登山道に出るまではあきらめモードが入っていたが、急に「これで助かった。どこでビバーグしても明日には下山できる。」と思うようになった。
とりあえず、尾根上は風が吹いており、寒さで体力が消耗しないよう樹林帯までヘッテンで駆け下りた。
朝、入渓した登山道の徒渉点は、沢の水が増水しており、フィックス・ロープがありがたかった。
最後の気力を振り絞って、駐車場まで駆け下りてしまった。21時少し前だった。
全身ずぶ濡れ、泥まみれ、傷だらけでしばらくは車の前に座り込んでしまった。そういえば、まだ昼食も食べていなかった
登山届けには車のナンバーも記載されているので、1〜2日車が駐車しっぱなしなら捜索隊も出ていただろう。
最後に。
バリエーションルートは一歩間違うと大変なことになる。今回のケースも鉄砲水、滑落、落雷・・・ありとあらゆる危険を極僅かなところで回避したに過ぎない。
このレポは、何かの参考になればと思い、”恥を承知で”作成した。皆さんのご意見を拝聴できれば幸いである。

なお、余談だが、必至になっているときは人間ものすごい力を発揮するモノだ。泥壁の登行、ヤブ漕ぎ、・・・ほとんど、肋骨の痛みを感じなかった(脳内モルヒネか?)。
しかし、下山して風呂に入ったら・・・・すごく痛い。
このレポでは墜落を一番大きく取り上げているが、実際には”大雨+落雷”の方が精神的なダメージは大きく、その日の夜は疲れているにも関わらずこのシーンが回想されてしまい眠ることが出来なかった。過去、数回山でピンチになったこともあるし、実際に2回ほどビバーグ経験があるが、今回ほどせっぱ詰まった精神状況になったのは初めてだ。